冬峰さんが、少し驚いた様子で振り向いた。

これはここに来る前に話してなかったことだから当然だ。

「僕は冬峰さんの様に歌が上手くない。絵も下手くそだしトークも全然ダメだ。だけど言葉で、文章で何かを伝えることは出来る。このアプリで地道に文章を書き続けて、他者に自分の想いを伝えることは出来る。そしていずれは認められて小説家になってみせる」

「……それが君の答えなんだね」

「はい。ケニー先生もそうなることを予想し、望んでいたはずです」



そう。このユートピアートは権限を持つ者による完全招待制アプリだ。

裏を返せば――今権限を持っているケニー先生の意思一つで、ユートピアートにいくらでも人を呼び込めるということになる。

これだけオーバテクノロジーを詰め込んだアプリだ。招待されればいくらでも人は来るだろう。

そんな新規参入者を相手に僕は小説を書き続け――

「私は……歌を歌います」



冬峰さんが、僕の意思を汲み取って宣言した。

「ユートピアート初の歌い手として活動します。雨宮君が評価してくれた歌声を、もっとたくさんの人に聴いて欲しいから」



ユートピアート初の歌い手。

きっと彼女の力ならあっという間に大人気アイドルになるだろう。

他のSNSや動画サイトでは飽和してしまっている歌い手も、この全く新しい環境のアプリでなら成功の可能性は充分ある。

僕らの宣言を受けて、ケニー先生は満足げに頷く……と思いきや、眼鏡の奥に真剣な目を覗かせた。



「本当にそれでいいんだね?」