「え……?」

流れてくるのはこの世のものとは思えないほど美しく、しかしどこか儚い歌声。

今まで聞いたどんな歌声とも違う、まるで別の世界から響くような音色。

曲自体は僕は知らなかったし、音程やリズムもところどころズレているが、そんな些
細なことがどうでもよくなるくらい彼女の声は……異次元だった。

聴き入るうちに周囲の光景が更に鮮やかになっていき、そこでようやく僕は気づく。

僕はきっと――歌を通して、目の見えない冬峰さんの思い描く世界を見ているんだ。

本当は世界なんてこんなに綺麗なんかじゃないのに。それを見たいという願いを歌声に全力で込めて――

「雨宮君……どうしたの? 大丈夫?」



いつの間にか泣いてしまっていたらしい。

心配そうな冬峰さんの声で僕は夢から覚め……彼女の手を握った。

「ふわっ⁉ どうしたんですか急に⁉」

「答えが分かったんだ――今の僕ならきっと、冬峰さんを支えられる」



つい咄嗟に出てしまったその言葉に、染まっていた頬を更に赤くさせ――冬峰さんは俯きながら彼女らしくない慌てた声で言った。



「や、やめて下さい……そんなことを言って私に誤解されたらどうするんですかっ!」