「初めまして、雨宮勇樹です。……あの、どうしてずっとイニシャルを?」



ずっと聞こうとして、聞けなかった疑問。

彼女は少し諦観の混じった笑みを浮かべた。

「私は他人を信用できないんです。こんな目では尚更ですけど」

「失礼ですけど……その目は生まれつきですか?」

「そうですよ。ユウキさんと連絡してる時もずっと、お母さんに読んでもらっていました」

「げっ……ずっとあのやり取りを親御さんに見られてたのか……」



僕の反応に、冬峰さんはクスクスと笑う。

「お母さんは凄くいい子だねって言ってましたよ。それだけに、私もユウキさんと疎遠になってしまうのが嫌でした」

「それで今日僕と会おうなんて……」



僕はため息を吐いた。

僕が冬峰さんと会いたい気持ちが少なからずあったのは事実だ。だけどそれはあくまで興味本位で、決して寂しいからなんかじゃない。

自らの手で破壊したのに――僕に寂しいだなんて思う権利はない。

「ユウキさんとはいつも診察日が違ったから今まで会う機会もありませんでした。でも、今こうしてこの様な形で会えたことは私は嬉しいです」



何故か嬉しそうな彼女に、僕は問いかける。

「その気持ちは有難いけど……僕と会ってどうするんですか? ケニー先生を直接問い詰めた方がよっぽど有意義だと思いますが」

「落ち着いて下さいユウキさん。焦りは不安を、不安は視野を狭めます。貴方は折角良い目を持っているのに」



冬峰さんのその言葉に、ハッと目を見開く。

確かに答えを急ぐあまり、僕は大事なことが見えていない。

あの『他人を信用できない』と断言した『N』改め冬峰奈波が、僕に会いに来てくれた意味。

それを僕は少しでも考えようとしただろうか?

彼女の閉じられた瞼を静かに見つめ、僕はこう誘った。



「少し向こうで話をしませんか。僕はきっと……貴方のことを知りたいんだと思う」