『N』の発想は飛躍していて、僕には到底ついていけなかった。

だけど気持ちは分からなくもない。目的意識を失った人間に行動原理を与えてやるのに『ユートピアート』は打ってつけのアプリだ。


『貴方はそれで具体的にどうするつもりですか?』


多分、今までで一番長い沈黙が流れたあと簡潔な返事が返ってきた。


『私の歌声を投稿してみようと思います』


『歌を? どうしてですか?』


やはり、昨日の僕の直感は間違っていなかったようだ。

それにしても、いきなり歌を投稿だなんて一体何を考えているのだろう。


『一応合唱部に所属していましたし――何より歌うことが好きなので』


好きだから。

僕の疑問に、『N』は迷いなく簡潔に言い切ってみせた。

そして、そんな単純な理由で行動を起こせる『N』が今の僕には少し羨ましく感じられた。


『そんなことをしてもここには聴いてくれる人は僕しかいませんよ』


『いいんです。こんな私でも何かを作れるって証明したいだけですから』


『N』の決意は固いみたいだった。アプリの存在意義に否定的な僕だったが、『N』の行動を止める理由はない。


『分かりました。僕は引き続き色々調べてみます。『N』さんの投稿を楽しみにしてますよ』


最後は少し皮肉を込めたつもりだったが、次の『N』の返答で僕は苦虫を噛まされることになった。



『あ、期待してるところ申し訳ないですが……投稿はもちろん非公開ですよ?』