「おはよう、勇樹!」



中学校に行く途中、クラスメートの綾瀬成美(あやせ なるみ)がわき道から茶髪を揺らしながら走ってきた。

彼女とは中学入学直後からの友達で、女子の中では一番仲が良い。……向こうがどう思っているかは分からないけど。

「おはよう、綾瀬」



僕が答えると、彼女はいそいそと鞄からノートを取り出して渡してくる。

「これ、昨日借りた宿題のノート! ありがとう!」

「ああ、別にいいよ」

「ううん、本当に助かった! お礼に何でも言うこと聞いてあげたくなるくらい!」

「何でもって……なら、僕に頼らずに済む様に勉強しなさい」

「げっ! それだけはちょっとムリかも……!」



綾瀬の顔から血の気が引くのを見て僕は大笑いした。

「ウソウソ! 綾瀬が自分で勉強なんかし始めたら槍が降るよ」

「何よ~そこまで言わなくてもいいじゃない!」



そんなやり取りをしていると、

「お前ら相変わらず随分と仲が良さそうだな」



後ろから僕より少し背の高い男子生徒、高木秋人(たかぎ あきと)があきれ顔で合流した。

彼とは男子の中では一番仲が良い。……これに関しては向こうもそう思っていると信じたい。

「高木君おはよう!」

「おう、おはよう綾瀬」

「どうしたの秋人。朝から機嫌悪くない?」

「いつも通りだよ。そう言う勇樹はたまにはいつも通りじゃなくなって欲しいけどな」

「どういうこと?」

「能天気過ぎるんだよ、お前は。中学にもなって女子とばっかりつるんでると他の奴らに睨まれるぞ」

「どうして睨むの? 秋人みたいに話しかけてくれればいいのに」

「みんなが俺みたいに出来るわけじゃ……あーもういいや」



何故か秋人が嘆息すると、綾瀬が慌てて場を取り繕う。

「だ、大丈夫だよ! 私、女子には『勇樹にはいつも色々教えてもらってお世話になってるだけだから!』って説明してるし!」

「まず呼び捨ての時点でマズイしその説明だと色々誤解を招くぞ」

「え……ええ⁉」