……待っていた?

急に病室全体が暗くなった錯覚に陥る。

ケニー先生は僕を通り過ぎ、反対側へ歩みながら低い声で言った。

「僕は昔から何かを育てるのが大好きだった。猫も魚も植物もRPGのモンスターも、自分が好きなように手を加えて育てるのが大好きでね。それが私の思い通りに成長した時の喜びは、何ものにも代えがたい至福だったよ……もちろん自分の患者も例外じゃない」

「先生……?」

「君は私が育てた。そして君もまた私の思い描く通りに成長し、見事に成果を残した」



バンッ!

ケニー先生は突然テーブルに両手をつき、狂気に光る眼で僕を見つめる。



「真実を教えてあげよう――君は最初から病気なんかじゃない」



その言葉を理解するのに、十秒以上を要した。

「は……」



僕は衝撃のあまり、思わず薄ら笑いを浮かべた。

「先生はあまり冗談が上手くないですね。くだらない作り話で煙に巻くつもりなら、僕は帰らせてもらいますよ」



ケニー先生は動じることなく、むしろますます目を輝かせる。

「君が何を言っても真実は変わらないよ。あの監視カメラの映像も合成で作った偽物だし、薬も同じく何の効果もない偽物だ」

「で、でも実際に僕はあの事件で――」

「そう、君は実際にビデオを見て想像した裏の人格を発症して彼らを虐殺した。自分が『多重人格者だという強い脅迫観念』に負けてね」

「そんなの嘘だ! 先生は僕を騙そうとしているに決まってる!」



喚き散らす僕の前で、おもむろにケニー先生は僕の鞄から薬を一錠取り出してそれを二つに割った。

中身は――空っぽだった。

「じゃあ僕は……僕は……」



何が何だか分からない。

頭がドス黒い奔流で真っ黒に埋め尽くされる。

両手で頭を抑えて喚く僕に、ケニー先生は恍惚の表情で囁いた。

「どうだい? 君が私の創り出した最高傑作だと知った感想は?」



舌なめずりをし、震える僕の肩を愛おしそうに撫でる。

「あのテロリスト達には感謝しなくては……偶然にも、君が美しく開花するきっかけを作ってくれたのだから」



プチン、と僕と自分を繋いでいた糸が切れる音がした。