ケニー先生は立ち上がると、テーブルを時計回りに歩きながら静かに語り出す。

「君が解離性障害――多重人格者だと発覚したのは小学校に入って間もない頃だった。発症した時、君はクラスメートを無差別に襲い数人にケガを負わせた。それ以降、監視カメラが捉えたその時の映像を私は君に繰り返しこのテレビで見せ続けた。そうすることで君に自分の中にあるもう一つの人格を自覚させ、意識的に抑え込ませようとしたんだ」

「もうあの映像は……二度と見たくないです」



ケニー先生は軽く笑って、何も答えなかった。

「同時に投薬治療も開始した。あの薬は効き目は短いが効果は強力だ。この二つの治療のおかげで君は今まで一度も発症することなく健やかな学園生活を送ることが出来た。……先日の事件が起きるまでは」



ケニー先生は僕の側までたどり着くと、優しく肩に手を載せる。

「大丈夫、君は何も悪くないんだ。テロリストに学校が占拠されるなんて前代未聞だし、予備の薬まで奪われたまま監禁されてしまってはどうしようもなかった」

「……慰めなんていらないです。先生は何がしたいんですか? 僕に必要なのは気休めじゃない。ただ――」

「ただ?」



僕はそこで言葉に詰まった。

僕は先生にどうして欲しいのだろう。

病気が完全に治る薬をくれ?

違う、どうせ死ぬつもりなのに今更そんなものは必要ない。

なら安楽死に協力してくれ?

いや……死ぬ場所、死ぬ方法くらいは自分自身で選びたい。

そうだ、きっとそんな単純ことじゃない。僕は……僕は……

「ただ……真実が知りたいんです」



どうして僕はこんな人間になってしまったのか。

どうして僕は彼らに感情をむき出しにしたのか。

どうして僕は友達を三人も殺してしまったのか。



「僕は普通に生きたいだけだったのに……実際に普通に暮らしていたはずなのに……どうして僕は人を殺さなきゃいけなかったんですか? 僕の中には一体誰がいるんですか?」



それを聞いたケニー先生は――ニッコリと、口が裂ける程の笑みを浮かべて嬉しそうに告げた。



「君がそう言うのを待っていたよ」