「よし、着いた!」


彼が私の耳元で話す


「目閉じて!」


どうやら、サプライズをしたいらしい


「わかりました」


私は目を閉じた、まだ中庭には出てないみたい


カラカラと廊下に車椅子の音が響く



途中で車椅子は止まり、彼の手が離れる



ギィーーッ…




重いドアが開く音



また車椅子は動き出して



ガタッ



病院の中の床の段差を軽く超える



「…すずしい」


少し肌寒い風が心地良かった


顔に当たる優しい風が冷たくて気持ち良い



「まだ開けちゃダメだよ」


顔を上げた私に、開けようとしたと思ったのか
彼はまた私の耳元で囁く


「わかってます」


外の草の匂いがする


普段嗅がない匂いだけど、久しぶりに外に出ると顔に当たる風も、瞼の隙間から漏れ出す月の光も
いつもは気にもしない草の匂いも
全部が新鮮に感じる



少し道を進むと、あたりがぼんやり明るくかんじた


彼は車椅子を止めて、しゃがんで私に言う


「もう開けていいよ」



私はゆっくり、まだぼんやりする目を開けた