「美南ちゃん…ごめん。」

彼は静かな声でそう呟き、私の後ろにある本棚に腕を置き、私に顔を近づける。

正直、私は展開についていけず、今の状況を把握できていない。頭は真っ白でプチパニック状態だ。

私…キスされるんだ。

訳も分からないまま、顔を近づけてくる彼を受け入れようとした。

「し、信じられない。」

彼と話をしていた女子生徒が私と彼を見てそう言うと、泣きながら足早にその場を立ち去って行った。

何?何が起きてるの?

女子生徒が居なくなったのを確認すると、彼はフゥっと一呼吸して私から顔を離す。

離れた彼の顔をジッと見た。サラッとした髪に、爽やか系の容姿…やっぱり誰だか分からない。聞いたことあるような声だったけど…気のせいだったかな。

「あ、あの…?」

私は恐る恐る彼に声をかける。すると彼はハッと我に返ったのか、慌てた様子で私から距離をとった。

「ご、ごめん。本当にごめん。」

申し訳なさそうに必死に謝ってくる彼。そんな彼を見て、私はその必死さから思わずクスッと笑ってしまった。

「気にしないで下さい…何も無かったんですから。」

そう。私達はキスしてなかった。さっきの女子生徒の方から見たらキスしているように見えたのかもしれない。でも実際はキスのフリだけで、顔を近づけたまま寸止め状態だったのだ。