気が付けば、恒例の長い校長先生の話が始まっていた。

その瞬間、辺りは次第にざわついていく。

それが終わるころには、色々な場所から先生達の注意している声の方がよく聞こえていた。


ただ、クラスの担任の紹介をし始めた頃になれば、皆自分のクラスが気になるのか、少しずつ静まり返っていて、私も担任の方へ自然と耳を傾けていた。


各クラスの担任の先生が、自分のクラスの生徒を出席番号順に読み上げていく……


呼ばれた生徒は立ち上がり「はい!」と大きな返事をして再びパイプ椅子へと腰を下ろす。

よくある入学式の光景だ。



担任は、40歳代後半の《中島哲史》という少し白髪交じりの男の教師だった。

とても、はっきりした落ち着いた口調で名簿を片手に名前を呼ぶ

「内田奈月」

「はい」

自分の口から発された声は決して皆に聞こえるような大きさではなく、その声の元を辿ろうとする者すらいない。


これが、高校ってものか……

なんて思いながらも自分の順番が終わったと、胸を撫で下ろし椅子に深く腰を下ろす。


そして次々と呼ばれ返事をしていく


「橋本流奈……」


その瞬間、静かになった。

耳を澄ましても聞こえては来ない

そう、何も返事がない。


「ん?橋本流奈」


担任がさっきよりも大きな声で名前を呼びなおす。

「チェッ!!!」

舌打ちが聞こえたと共に、めんどくさそうな顔をして、椅子からゆっくり重い腰を上げた。


一斉に視線はそっちの方向へと向けられる。


それでも微動だにせず、女の視線は担任へと向けられる……


橋本流奈ーーーー。


ああ……、朝の不良女は橋本流奈って言うんだ……。

そんなことが一瞬だけ脳裏を横切ったが、きっと関わらない生徒。

いや関わりたくない生徒だろうと、一瞬で思った。

そんなことを考えていた間にも、まだ不良女は挨拶をしようともせず、視線は担任へと向けられる……


それは、睨んでるのと思うほど真っ直ぐな強い視線で担任をただ見つめている。


担任は、この生徒が世間でいう手のかかる生徒、だと認識して黙って出席名簿に印をつけただろう。

そして、次の名前を呼んだ。

不良女は自分の番が終わったと認識し椅子に腰掛け足を組んだ。