四月を迎えたばかりの風は、どこかまだ冷たさを感じさせる。

それでも上を見上げれば、空の色は春めいていてた。


「ねぇ、あんたどこ中?」

気だるそうにしガムを噛みながら、花壇前の地べたに座り込み人目を気にせず、私に話しかけているのは、青いアイシャドウに紫の口紅をした一人の女。

橋本流奈


その女にからまれているのは


内田奈月で私である。


私は、高校生活を待ち焦がれていた。

知らない土地で、新しい友達を作るんだと高校受験を決めてからワクワクしていた。

それなのに、あっという間に覆されたのは昇降口の門をくぐった花壇の前。

なんとも、最悪な朝を迎えてしまった。


そしてもっと最悪なのは入学式だということ。

ワクワクした高校生ライフへの憧れや希望は、目の前の不良に絡まれ、無残にも壊されていく。


それでも得意の髪をかきあげ深呼吸して呼吸を整えると、ゆっくりと落ち着いた口調で話した。


「千里中だけど」


その女は、表情を一切変えずただまっすぐ私を見ている。

それは、まるで獲物を捕らえたかのように・・・。


ただ、ただ、無言の時間が過ぎた。


「ふーん、知らない中学だわ」


暫くして、その一言を残し目の前の女はどこかにいってしまった。