「奈月は私の親友でしょ?」

「……」


美香に握られていた手を静かに振りほどくと、美香は顔がこわばるほどの驚きを見せた。

「奈月?違うの? ひどい!!」

「死んでやる!!」

美香はそう吐き捨てると、私のことを押して少し離れたところで泣いていた。


その瞬間、私の周りの音も色も一瞬で消えていく……

時間が止まったような感覚に陥り唖然として言葉が出ない

"美香何言ってんの?"

私の妹が入院していることを知っているし

命がかかっている病気だということも伝えていた。

幼い妹は、この先どうなるか分からず不安な毎日を送っているのに

どうして"死"という言葉を私の前で簡単に……


その一言は

勝手にカバンの中を探られた事より許せなかった



目の前で泣きじゃくっている美香を見れば見るほど耐えられない怒りが心臓で唸る


それを爆発させないように冷静を保ち、ゆっくり深呼吸したーーー。



「私には親友なんていらない」


美香は大きな声で泣き出したかと思えば悪鬼のような形相をしていた。


私はハンカチすら渡すことなく、その美香の姿を冷静な心で深く見ると小さくため息を吐いた。

時計に目を移すともう5時半を教えてくれている。


いつの間にか2人がいた教放課後の教室には夕日が差し込んでいて

何年か前の2人はこうして放課後グランドを見つめ好きな人の話をしていたこともあったな……

なんて一瞬だけ綺麗な夕日に蘇らせられた。


「待って、奈月……」


背後から聞こえる美香の声に1度も振り向くことはなく、私は放課後の教室に美香1人を置いて、教室を出た。