好きな人とのキスがこんなにも幸せで、胸がいっぱいになる事を知った。

でもそれと同時にかすかに痛む胸の痛み……それを一生懸命気づかないふりをしていた。

「よし!これで完成〜!!」

「かんせ~いいっ!!」


キスした場所の一番近い鉄柱に2人で相合傘をかいた。


"木村陽平 のY.K"
"内田奈月のN.U"

二人のイニシャルがハートの傘の下に書かれた。

それを見ているだけで恥ずかしくて……


でも嬉しくて……

陽平を見れば優しい口元に薄笑いを見せていた。

そんな陽平の頬に私は軽くキスをした。


「なんだよ〜俺からもさせろ〜」

「今日はもうおしまい~っ!!」


そう言いながら私は逃げた。

「こら、待て!!」


まるで夢の中にいるような、映画のワンシーンのような、幸せを全てかき集めたような幸福な時間………。

ふざけて二人で追いかけっこをして笑い合った。


"陽平とずっと一緒にいたいな"

いつしかそんな感情さえ生まれてきていて


この時ほど、厳しい家に生まれて来てしまったことを酷く後悔をした。

帰りたくない……

もしそんな言葉を放ったら本当に後戻りが出来なくなってしまうんじゃないかと怖かった。


「陽平……?そろそろ私……」

「よ~し、帰るぞぉ~!!」

まるで、そんな私を悟ってくれたかのように、陽平は私の前をスケボーで駆け抜けていく。


「待ってよぉ~!!」

遠くなっていく陽平を一生懸命追いかけながら、自然と笑顔が戻った。

「じゃあな、また明日」

家の前に着いた時、そう頭をポンと叩かれ、一瞬で体中が熱帯びていく……

「うん、ありがとう」

その言葉に片手を上にあげると、陽平は再びスケボーで私から遠ざかっていく……。


門限のある私を悲しませないように気遣いしてくれているそんな健気な陽平が凄く大好きで、陽平の背中に向かって、


小さな声で「大好き……」そう呟いた。