その宝箱にはグランドピアノがデッサンされていた。
左右大きさが違う二つのこぶのゆるい山がある下に鍵盤が書かれている。

そして 箱の側面には小学校を卒業する西暦と、色々な色に塗られた音符のマークが彫刻刀で掘られていて華やかなBoxにし上がっていて我ながら力作で満足な仕上がりの作品だった。

懐かしい気持ちは自然と笑顔にさせてくれるものだ。

それでも過去を思い出すことに抵抗がある私は、当時の自分を思い出させた今を必死に打ち消そうとしながら再びそれを白い箱に戻そうとした時、カタカタという音が耳に入った。


再び横に振ってみると確かにカタカタと音がする。

"ん?なんか固そうなもの?"が入っているような音がまた好奇心をかりたてながら、ここに一体なにを入れたのか一瞬だけ考えてはみたが思い出せない。

再び横に振ってもう一度その音を確認すると引き寄せられるかのようにゆっくりと宝箱を開けた。


「あっ……」

思わず声がこぼれた。


そこには手のひらサイズのオルゴール

そして……
一つだけボタンが入っていた。

思わずゴクリと生唾を呑み込むと、それを手の上に乗せた。
私の手のひらの上でコロンと乗せられたボタンを見た時に、じんわりと胸が痛む……

そしてあの淡い思いが鮮明に蘇ってきていた。


これは陽平の第二ボタン。


あの時、どうしてもどうしても欲しかった……
陽平の心臓の一番近く、心のそばに3年間付いているボタンが。

それが今私の手のひらの上にある

「どして……」

大好きだった彼との思い出が一気に溢れてきていた。

「よう...へい....……」私はそれを自分の心臓の近くへそっと当てていた。


顔が赤らんだり、駆け引きすることもなく気持ちが突っ走って止められなかった恋。

あんなに心臓がドキドキする高鳴りは陽平でしか感じられなかった。


陽平の顔を思い出しながら、オルゴールをゆっくりゆっくりと回し始め手を離すと、優しい音色が部屋に響き渡りだす。

"すごく懐かしい気持ち……オルゴールなんて何年ぶりに聞くんだろう"

私はベッドに腰掛けながら脳が休まるようなテンポ、その心地よさに静かに目を瞑って耳を澄ませていた。