「………ちっ」

大きな舌打ちと共に、目の前からジッポが片付けられた。

きっと、私を燃やしたいほどの怒りだったってことはなんとなく理解はした。

「ごめん……」小さな声で、いきなり謝ったかと思えば私の体は一瞬で包まれる。
力強く抱きしめられていて苦しいはずなのに、こんな時でさえやっぱり何処か心の奥の方がずっと痛みを感じる。


「離れて」と冷たく突き放せば「なんでだよ、好きだったのに……」なんて泣きだした男を見ながらため息を吐く。


「いくじなし」と小さく呟いた声が届いたかなんて分からないが、年上だろう大人の男が私の膝にしがみつく姿を見て、男の人に勝ったように思えるようになっていた。


力では確実に負けてしまう。
だったらプライドをズタズタにしてしまえばいい。

「あのさ服、オイルだらけだから弁償してくれる?新しいの買うから」

私は淡々と話すと、名前も忘れてしまったまるで子供のように泣きすがる男を再び突き放す。

そう。私は鬼でいいの

とことん冷たくしては嫌われるくらい暴言も吐く。

私は私に未練なんてちっともない

いつか恨みをかって刺されるだろう、なんて時折過ることもあるが、やめることなんて出来なかった。

むしろそれならそれでちっとも構わない。

しゃがみ込む男を目の前にして「さようなら」そう一言だけ放つと、男は私を見上げた。

きっと私の瞳の奥にひそんでいる、恐ろしいものを感じてしまったのであろうか、なにも言葉をかけて来ることはなかった。

私は静かにその場をあとにした。