その一言に反応して私は目の前の男を思い切り睨んだ。
「本気にでもなった?遊びに決まってんじゃん、ばっかみたい」
私はうっすら笑っているのを自分でもわかっている。
きっと不気味な笑みなのだろう、相手のびっくりした顔を見ておかしくなっていた。
「は?!」
分解していたジッポに、ポケットから取り出したオイルを注いでいる手が止まると、目の前の男は私に向かって何かを呟いた。
その一言が一体なんなのか、問い詰める暇もなく、私は目の前におこっている状況が上手く理解しがたい。
ただ言えることは、自分がとてつもなくオイル臭いということ。
そして洋服がシミを作っている。
大声で笑い出したかと思えば、ジッポを私の服の近くにつけて「恐いだろ」と顔を近づけて我慢のならない憤激が伝わってくる。
かなり時間がかかってたものの、今自分が置かれている状況がようやく理解できた時「やれば?」そう微笑みながら目の前の男から目を反らさず囁いた。
私の過去も知らない人たちの中、違う名前で生きているのに、奈月が時より顔を出すのも辛いんだ。
過去は消せない、だからずっと苦しい
もう私を消してほしい
消してくれるならなんて有難いことだと
そう思って静かに目をつぶっていた。



