「なんか接客が事務的なんだよなぁ……」

ソファーに深めに座り、私の顔をジーと見つめ、いかにも店長がいいそうな言葉を発しているこの男性は、いつも誰も指名をしないで長らくこのお店に通ってくれ、店長も太客にしていたお客様だった。

噂ではなかなか大きな不動産の会社の社長さんという話を聞いたこともあったが、私には知ったこっちゃない。

それに、皮肉な言葉を言われてもいちいち反応する女ではない。


「よく言われます!ありがとうございまーす♡」と笑顔で返す。

「いやいや、褒めてないわっっ!」

そのお客様の黒崎さんは、このような返しを受けてびっくりしたのだろうか、呑んでいたブランデーをむせ返しながら笑っていた。

「七海ちゃんだっけ?名刺ちょうだいよ」

そう言いながら、ブランデーを飲み干すとグラスを静かに置き、私に手をそっとさし出す。

その瞬間、腕に巻かれている高そうな時計がスーツから顔を出した。

私はその時計がどのブランドからわからないが、暗闇の中でもキラキラと輝くものが上質なものだろうと感じさせた。

「黒崎さんはどうせ指名しないし、後で捨てるんですよね?ならあげませんよ。これもお金出して作ってるんですから」

またまた目をまん丸くビックリしながら私を見ていた黒崎さんは、私の肩をポンポンと優しく触れた。

「気に入った!いやー久々に変わってる子に会った」

どこが面白いのか私には分からないが笑いのツボにはまったようで、顔をくしゃくしゃにしながら笑っていた。

そしてそんな風に笑う黒崎さんを見て羨ましくもなってしまう。

こんな風に笑ったりすることができる日が来るのだろうか……と。

接客中にすらそんな素に戻ってしまった自分を押し殺した。

「もう、やっと気づいてくれたのですか?黒崎さんったら」

「面白い!!実に気に入った!!」

その黒崎さんの言葉に、私は笑顔で返すと、膝の上に置いてある小さなバッグから名刺を差し出し「これからも宜しくお願いします」を小さく頭を下げた。