「お父さんやめて!!!って女の子に手をあげないで」

母親は泣きながら私の前に立っていた。

私をかばってくれた
こんな私を……

ただそれだけで嬉しくて、もう十分だった。

こんな形だけど、母親の優しさを感じたのは久しぶりだったから。

「お母さん、私は大丈夫。もういいの、出てくよ」

"大丈夫"その言葉には何の説得力も根拠もない。

ただのおまじないのような言葉。

「なつき……」

頬が痛かった
身体が痛かった

頬は腫れ、身体はあざができるだろう

それでもいつかは治る。

だけどこの心は…きっと治ることはない。


この歪んだ親子関係は、立て直すにはとても難しい

関係にヒビが入ったとか、そうゆうものじゃない。

私と家族の関係はもう、粉々になってしまったんだ。

ドアの横にあるガラスの棚の中には、家族みんなで撮った写真が飾られていて
その中の私は小学生高学年だろうか…

思い切り笑っていた。

きっとこんな顔をすることはもうに度とないのだろう

そして、その横の母親も、優しく微笑んでいる。

目の前にいる母に目を向ければ、随分とやつれていて、病院通いで疲れ切っている。

これ以上、苦しめたり悩みを増やしたくなかった

今の私にとっての母孝行はこれしかないと思った。

「ありがとう」

「奈月?何いってんのよ?だめよ!高校はどうするの?」

「それは……本当ごめんなさい」

母親は震えながら、私の手を握り引き止めたが、父親はまた追い討ちをかけるように怒鳴り散らした。

「お前止めるんじゃね!オイ!奈月、出て行け!」

父親の物凄い威圧感と、大きな声で罵声を浴びた母親は私の目を見つめてそれ以上言葉には出せなくなってしまった。

そんな母親に軽く頷き、私は母の手をそっと離した。

よろけながら自分の部屋に行き、バイト先に電話をして家庭の事情で辞めなくてはいけないことを話しながら、私はスーツケースとボストンバッグをクローゼットから引っ張り出す。

「色々とお世話になりました」

そう店長に言うと、携帯と閉じそれを暫く見つめる。


"もう失うものはなにもない"


そう思いながら静かに携帯を閉じると、手当たり次第、自分の手に収まる荷物を見つけては、ボストンバッグへ押し込んだ。

スーツケースの中にも洋服や小物を投げ込む。

こないだ現像したばかりの写真が、机の上な無造作に置かれていて

きっと見返してしまったら決意が揺らいでしまうかもしれないと思いそれは、ゴミ箱に捨てた。


部屋を見ると、なんだか殺風景だった。

「バイバイ、奈月……」

そう自分の部屋にそう呟くと、私は部屋をあとにした。