「おい!奈月っ!!携帯よこせ」椅子に座り私に手のひらを向けて険しい顔している父親。

その後ろには悲しい顔をしてこっちを見ている母親の姿もあった。

いつからか私にはこんな顔しか向けてくれることはなくて、もうどのくらい父親の笑顔を見ていないのか…と考えてみたけど、父親の笑顔がどんなものか思い出せないくらい、忘れてしまってる。

「え?」

「夜中お前が話している声がうるさいって、めぐみが言ってたぞ」

「あぁ…あんまり寝つけない時は友達と話して……」

「言い訳はいいから、早くよこせ!しばらく没収する」

「だから、なんでよ?」

お父さんは鋭い目で私を睨みつけていた。

その瞬間、携帯を取られてはたまるか!という思いと、また殴られると防衛をこめて睨み返してしまった。

「親に向かって、なんなんだその反抗的な目は!」

パチーン---!

静かなリビングに勢いよく平手打ちされた音が響いた。

その瞬間私はよろけてテーブルに身を任せる。

勢いの凄まじさから、自分の子供だろうが手加減なんてしているようには思えないくらいだった。


なぜだか、毎回叩かれた頬より胸のが痛くなるのが不思議で、ジンジンしている頬を左手でおさえながら、右手で胸の辺りのTシャツを握った。



「もう……やだ………」


小さいため息と共にとっさに出てきた一言と共に頬に涙がつたう。

そのため息を聞いてさらに父親の怒りがましているのが表情で分かった。

「おぉ、じゃあなんだ?何がいやなんだ?言ってみろ」

「なんでいつも、最後まで話を聞いてくれないの?」


「どうせ聞いたってお前は言い訳しかいわねぇだろ?気に入らないなら出て行け!今すぐ出て行け!」

倒れてたままの私の腕を掴み無理やり立たせると、ドアに向かって突き飛ばされた。

「いったっーーーっ」バンっという鈍い音と共にドアの取手に体を強打し打ち身を感じながら我慢した。

悔しくて、悲しくて目から溢れ出す涙は止まることがなく、唇をかみしめる、声がでないほどの嗚咽で苦しみながらもゆっくり立ち上がった。