目の前に差し出されたお茶を飲むと、それがじんわりと体内に入って行くのが凄く良く分かった。

「ごちそうさまでした」

そう言いながら全てを飲み干した私は静かに立ち上がると「本当にありがとうございました」と深く頭を下げた。

「あら、もう大丈夫かしら?」

「はい、大丈夫です」

落ち着きを取り戻した私は、控え室を後にした。

どれくらいの時間、私は控え室にいたのかは分からないが、もう御焼香の列が最後の方だったのを見ると、随分長いことあの場所に居させて貰ったんだなと思った。

私も御焼香を終え誘導され、親族の席へ無事に座ることができた。

「どしたの?」

そう隣で小さく呟いてきたのはめぐみで「ちょっと気分が悪くなっただけ」と平然を装うのに必死だった。

それもそうだろう、この親族の席には間違いなく奴がどこかに座っているのだから。

だけど私は必要以上に、視界をシャットアウトしている。

正直、この場所にいることすら今にもどうにかなってしまいそうだったが、そんなこと言っている場合じゃない。

おばあちゃんを私は笑顔で見送りたいと、どんなことがあっても生き抜くと決めたのだから。


「それでは、そろそろお時間となります」

葬儀屋さんが部屋に入ってくるなり、火葬の準備が整ったことを知らせてくれた。

順番に案内され、火葬場へと移動していく……

色々な説明を聞かされているおじいちゃん。

こんな時、悲しみに浸っている暇もないのだなと、次々にやることを説明されている姿を見ていると思ってしまう。


人間の死って一体なんなのだろう。

この場所にいながらもふとそんなことを考えてしまう。



そして、本当に最後、おばあちゃんが旅立つ時

ずっと大人しくしていたおじいちゃんが立ち上がり、おばあちゃんを追いかけた。

「なぁ…ばあちゃん、焼かれちまうよ……なぁ、ばあちゃんを連れて行かないでくれ……」

「ばあちゃん、俺を1人に……させないでくれ」

泣き崩れていくおじいちゃん、その横にさっと肩を摩りながら支えている父……。

父は、しっかりとおじいちゃんを支えながら。溢れ出て来る涙を拭うことはなかった。


おじいちゃんのあんな掠れた声なんて今まで一度も聞いた事がなかった。


私もつられるように涙が溢れだしていく……

周りからも鼻水をすする人、声を漏らし泣きている人、静かな火葬場で響き渡っていた。

さっきまで眠っていたおばあちゃんを
もう二度と見ることができないんだ


そう理解するまで、少しだけ時間がかかっていた。