「ねぇ春樹?……私と結婚してもいいなーって思ってくれた事ってあるの?」

「んだよ!急にっ!」

流奈の家から帰った日のその夜、ベッドにうつ伏せに寝そべりながら春樹に電話をしていた。

「コン、コン、コホンッーーーーッ!!!」

タバコを吸っていただろう彼はむせていた。

びっくりして、あわててる様子が目に浮かんで笑ってしまう。

「ははは、なんか急に結婚ていいなーて」

勢いよく起き上がると、なんだかベッドの上ではずんでしまっている自分がいる。
なんだか今日はとても気分がいいのだ。


「何言ってんだよ!まだ高校生だろ!まずは、そんなこと言うならちゃんと卒業しろよな!」

「はいはーい」

「今日の奈月は気持ち悪いくらい素直だな、なんかあった?」

「べつに~!!」

そんなことを話しながら、今日は春樹との会話も盛り上がり通話時間は軽く50分は超えていただろう。

そして、春樹の声がだんだんスローになって行く、眠たそうなトーンを察する。

それでも切ろうとしない春樹は心底いい男で、私には勿体ないんじゃないか?なんて思う時もある。

「明日も早いよね、仕事頑張ってね、おやすみ春樹っ!!」

「ありがとうな、……あっ!奈月?」

「ん?なに?」

そう言いながらも"愛してるよ"とか"好きだよ"と言ってくれるのを構えている自分もいる。


「あのさ……高校卒業したら一年くらい同棲して結婚しよ」

「えっーーーー!!………結婚?」

自分からさっき聞いたくせに、いざ結婚というワードが彼から出た途端、なんだか急に恥ずかしくなった。

そして電話越しでもこのドキドキは伝わってしまうのではないかってくらいに、私の鼓動はおかしいことになっている。

「俺だって色々考えてるんだよ?だからさ、プロポーズはまた改めてさせて」

電話の向こうの彼の吐息で照れ臭そうに笑っているんだなと感じる、それがまた愛おしい。

「うん。じゃあ私が奥さんになったら、格別に美味しい味噌汁作ってあげる!」

そんなセリフを言いながら嬉しくて目から自然と涙が出ていた。

「美味しい味噌汁より肉料理がいいなー」

「贅沢だな」

ケラケラと笑いまた明日と電話を終了した
私は彼の愛でまた心を温められていた。


私はこの人に、必要とされている、愛されている……

そう実感できると

私の心は冷たくなることなく
温たまったまま
安心して眠りにつくことが出来た。


春樹と同じ大人に1日でも早くになりたかった。
結婚を意識すればするほど彼の愛を独り占めしたくなっていた。