「ただいま」
いつもより大きな声で言ったのは、自分の誕生日だからだろうか。
『おかえり!誕生日おめでとう!!』そんな言葉をどこかで期待していたのだろうか。
それなのに、玄関のドアを開けた瞬間感じたのは、そんな言葉でも温かい空間でもなくて。
夏なのに冷え切った空気だけを感じた。
いつから私の帰る場所だったこの家はこんなにも冷え切ったものになってしまったのか……なんて考えてしまう。
だけど、母親からは【誕生日おめでとう】と、昼間にメールを送ってくれていてそのお礼でも言いたいと思い、自分の部屋に行かずにリビングに立ち寄れば、そこに母親の姿はなかった。
分かっていた、今日だって亜紀の病院に行っているだろうってことくらい。
そもそも期待なんてしていなかった。
TVの音が響いている方向へと視線を移すと、そこには父親がいて寝っ転がってTVを見ている、もちろん私の方へ向くこともなく、むしろ誕生日なんてことすら忘れているだろう。
ここまで来るとなんとなく想像は出来てるが、おもむろに冷蔵庫を開けてみたが、そこにはケーキなんてものは用意されていなかった。
冷蔵庫を閉めた瞬間、身震いを感じ、私は所詮そんな扱いだったじゃないと自分で自分を励ました。
早く終わらせたかった、誕生日というものを。
そのまま洗面台に行くと、顔を洗う……
あっという間に素顔になり鏡に映る自分を見ると目が真っ赤になっていた。
「まるで、ウサギみたい……」
そう、こんなもんなんだ
こんな関係性に慣れていたはずなのに、誕生日というただ私の生まれた日のせいで、今日は随分振り回されている
何を期待しているんだろう
なぜ今年はこんなに執着しているのだろうか……



