西校舎の佐倉くん




「佐倉くん、後悔してました・・・・貴女の笑顔を、守りたかったって。

貴女の笑顔が脆く見えて、自分が守りたいと思ったって。」


「・・・もう帰って・・・」



私の声を遮断するように、耳を手で塞ぎ俯く先生を見て、言葉が詰まる。



「彼はもういない。わたしや彼がどれだけ後悔してようと、その後悔をいまさら晴らすことなんてできない。

だったらもう、忘れてしまいたいの。その方が楽でしょう?もう忘れさせて、お願い」




まだいる。


佐倉くんは、まだあそこにいる。



3年前のまま、ピアノが好きな佐倉くんが。




「佐倉くんに会ってあげてください」


「は・・・?」


「お願いします。一度だけでいいから佐倉くんと────」


「彼と仲良かったなら知ってるでしょ・・・彼はもう死んだのよ。いないの!」



勢い良く私の方を向いた先生の顔は、すごく悲しそうで。


ため息を一つ吐くと、そのまま職員室へ入ってしまった。



「・・・まぁ・・・そうなるよね」



死んだ人間に会ってくれなんて、普通に考えたら訳がわからない頼みだ。


ましてや桧山先生は佐倉くんに会うことを極端に拒んでいる。



そんな中で突然見知らぬ女子生徒に押しかけられて、会いたくもない人に会ってくれなんて。



無神経だと思われただろう。



心に迷いが浮かぶ。


佐倉くんとの約束を守りたい。
けれど、その約束を守ることで誰かが苦しんでしまうことになるのは辛い。



そもそも、好きだった人が悲しむ姿を見るのは、佐倉くん自身も辛いんじゃないか。




ぼんやりそんなことを考えながら、
私は青山高校を後にした。