西校舎の佐倉くん


「私が三枝です。貴女は?」


職員室の扉を閉めるなり、問いかけられる。

「・・・佐倉伊月くんの・・・」


その名前を出した瞬間だった。
今まで少し微笑みを浮かべていた三枝先生から、一瞬にして笑みが消えた。

むしろ、どこか怒りとか、辛さとか、苦しさとか、そういうものを含んだ表情。



「彼のことはもう思い出したくないの。悪いけど帰ってくれる?」

「ま、まって、」

「いい思い出なんてないのよ、彼とは」


拒絶。

そう見えた。


もう佐倉くんのことは思い出したくない。話したくない。関わりたくない。

淡々とした口調から、心からの拒絶が見えた。


「佐倉くんは、桧山先生のこと───」

「桧山じゃない!!」

「っ・・・」



声を荒げ、名前を否定する先生。



「・・・わたしはもう、桧山ユキじゃないの。その名前は捨てたの。桧山ユキは、死んだの」

「でも、」

「お願い。帰って。もう二度と、彼のことは思い出したくない。」


涙ぐんだ声に、私も怯む。
もう諦めようかと思った。こんなにつらそうな顔をさせてまで、佐倉くんと会わせるべきじゃないと。


でも・・・この先生の話をする佐倉くんも、後悔で辛そうに顔を歪ませていた。
この先生の話をするときだけ、心からの気持ちを表情に出していた。


だから・・・会ってほしい。
会って、話して、佐倉くんには成仏してもらいたい。


「佐倉くんは貴女のことを愛しています!!」

「・・・」


職員室の扉に手をかけた先生を呼び止めるように、言葉を絞り出した。