西校舎の佐倉くん



放課後、私は鍋屋先生に声をかけた。



「先生、昨日なんですけど」


「あー、肝試しなぁ。何も起きなくて残念だったな。
まぁお前が急に走り出してどっか行ったのは怖かったけどな!」


「何も・・・起きなかった・・・」


「どうした?」


「・・・いえ。何でもないです。さようなら!」


「お、おう!気をつけてなー」



何も起きなかった。昨日の肝試しは、私が突然走り出したこと以外、何も怖いことは起きなかった。


ピアノの音は、鍋屋先生にも聞こえていなかったんだ。



本当に私だけ・・・。



周りの目を伺いながら、私は再び西校舎へ足を踏み入れた。

昨日と違い、日が出ている分明るさがある。
昼の西校舎は、幽霊が出そうな雰囲気は無かった。


音楽室に行くと、そこには昨日と同じ窓にもたれた佐倉くんの姿。



「本当に来てくれたんだね」


「待ってるって、言ってくれたから」



佐倉くんは、察知能力が高いらしい。
私が声をかける前に、扉の方も向かずに私が来たことを察知した。


幽霊って、そんなものなのか。




「本の内容、知りたいんだよね」



そう言って、彼は身体をこちらに向け、右手に持っていた本を見せた。
少し楽しそうな表情。



「はい。教えてください」


「いいよ、そこに座って」



ピアノの椅子に腰掛けた佐倉くんは、少し離れた生徒用の席に私を座らせ、語り始めた。