「それに、さっき急いでたおねえさんだ」
彼が顔を上げ私を見た。先ほどは隠れて見えなかった大きくぎょろりとした目がにんまりと笑う。
瞬間、ぞくりと背中に冷たいものが走った。
「今の炎はあいつが?」
「あぁ、どうやら術士のようだ。それも相当な」
セリーンがアルさんの問いかけに低く答える。
見ればセリーンは大剣を、ラグはナイフを手にしている。ブゥも相棒の傍らでじっと黒い術士を見据えていた。
術で起こした炎だったからきっと隣に燃え移ることが無かったのだ。そんなことに納得しながら私は小声でアルさんに言う。
「アルさん、もしかして」
「だろうな」
彼はラルガさんの方に向かいながら答えてくれた。
このタイミングで“術士”だなんて、きっと、……いや、十中八九、例の暗殺者に違いない。
「なんの話だ」
ラグがイラついたように視線だけをこちらに向けた。
アルさんは答えずにラルガさんの手前で膝を着きその身体を見回した。
「とりあえず息はしてんな」
それを聞いてほっとする。しかし彼は「とりあえず」という言い方をした。予断を許さない状態だということだろう。
「風の刃だ」
セリーンが術士を見据えたまま言った。
「風に包まれて、一瞬のうちに全身を斬られたように」
「そっか。……癒しを此処に」
男の傷に癒しの術をかけるアルさん。助かるだろうか……。
「おい、お前ら何か知って――」
ラグがもう一度私たちに訊ねた丁度その時、彼の身体は急成長した。
それを見た暗殺者は急に噴き出しけらけらと笑いだした。
その声はやっぱり――。
「えー、何今の。おっもしろーい! ふっふー、そんな術見たことないなぁ。ねぇ、キミ何者?」



