「あぁ」

 迷うことなくツェリウス王子は即答する。

「あの国も、城も、王も、じいさんたちも大嫌いだ」
「そう、ですか……」

 ――なんだか、クラヴィスさんが気の毒に思えてきた。
 きっと必死に王子を捜してやっとここに辿りつけたというのに。
 確かにツェリウス王子の生い立ちも可哀想ではあるけれど……。

「わかったなら、早く」
「ですが、貴方様がここに残れば彼女らを危険な目に合わせることになります」

 突然の不穏な言葉に、ツェリウス王子は眉根を寄せた。

「どういうことだ」

 クラヴィスさんがゆっくりと顔を上げる。

「殿下が考えているほど、殿下の存在は軽くないということです」

 その表情は、先ほどまでの優しい彼のものではなくなっていた。

「デュックス派の者達が暗殺者を放ちました。無論、殿下を確実に亡き者にするためです」
「!」

 王子の顔色が変わる。

「殿下だけではありません。おそらくは殿下と関わりを持った者たち全てを消そうとするはず」

 はっとした様子で王子は傍らにいるドナを見た。
 クラヴィスさんは事務的な口調で続ける。

「私がこうして見つけられたのですから、その者が此処に辿り着くのも時間の問題でしょう。殿下が居る限りこの場は危険だということです」

 思わず私は辺りを見回していた。ひょっとしたらもうその暗殺者は此処に辿り着いていてこの闇の中に潜んでいるかもしれないのだ。