そう言うとラグはすぐさま梯子に足を掛け下りて行ってしまった。何も言えずにそれを見下ろしていると、彼は途中気付いたようにこちらを見上げた。

「わかってるとは思うが、お前のことはバレねぇようにしろよ」

 私が“銀のセイレーン”だということだろう。

「う、うん」

 頷くとラグは満足したのかそこから地面まで一気に飛び下りてしまった。

 すると間もなくして女の子の泣き声は小さくなっていったのだった。



「もう行っちゃったよ、モリス」
「おれ達が守ってやるって言っただろ?」

 男の子二人がまだ小さくしゃくり上げている少女の顔を覗きこみ、笑顔で言う。
 ドナも少しほっとした様子で小刻みに震える背中を優しく撫でてあげていた。

 なんとなく声を掛けられないでいると、ドナがこちらを振り向いた。

「ごめんな」
「う、ううん。大丈夫なの?」
「あぁ、もう平気だ。ありがとう。……あいつに悪いことしちまったな」
「彼なら平気」

 ――多分。
 心の中でそう付け足してから続ける。

「それより、その子が眠れないっていう?」

 訊くとドナは腕の中の少女を見つめ辛そうに頷いた。

「この子はモリス。自警団の奴らが来てからずっと満足に眠れてなくてな。酷い怖がりになっちまって、ちょっとしたことで今みたいに大泣きするようになっちまったんだ」
「そうだったの……」
「ほらモリス、もう泣きやめ。お前にお客さんだぞ」

 抱きしめていた腕を離しドナは優しく言う。

「おきゃく……さん?」

 モリスちゃんがドナの視線を追うようにしてゆっくりと私を見上げた。