私はそれまでずっと触れていたビアンカから手を離した。

「アタシのっていうか、血は繋がってないけどな。アタシたち皆のばあちゃんなんだ」

 余程そのおばあちゃんが好きなのだろう、そう話す彼女の顔はとても誇らしげに見えた。

 ――自分がおばあちゃん子だからだろうか、やはり悪い子ではないと思った。

 私はラグの前に出てまっすぐ彼女に向き合った。

「おい」
「おばあちゃんに、会えるかな?」

 ラグの声を遮って私は彼女に訊く。セイレーンだというその人と話がしたいと思った。
 でも、急に彼女の顔が悲しげに歪んだ。

「死んだ。ひと月前に」
「! ……そうだったんだ。ごめんなさい」

 慌てて謝ると彼女は静かに首を横に振り、もう一度私を見た。

「歌ってくれるか? 仲間で、ここ最近ずっと眠れてない奴がいるんだ」
「眠れてない?」
「あぁ。5歳の女の子なんだけどな」
「5歳?」

 驚いた。仲間というからてっきり彼女よりもずっと年上の人なのかと思ったのだ。

「ずっと眠れてないって、どのくらい?」
「もう一週間になる。……自警団の奴らが来てからだからな」

 声に低く怒気が含まれた。と、後ろから呆れたようなため息が聞こえてきた。

「お前らがガキの集団っては本当らしいな」
「ガキって言うな! アタシはもう大人だ」

 彼女が憤慨したように怒鳴る。

 ――ラグは、彼女達が子どもだけの集団であるとあの自警団の人から聞いていたのだろうか。

 そんな彼女たちを護っているというモンスターは、今もすぐ後ろで心配そうに彼女を見上げている。
 ラグが面倒そうに続けた。

「んなこたどうだっていい。さっさとお前らの根城に案内しろ。そのガキ眠らせりゃいいんだろ」
「! 歌ってくれるのか?」

 彼女が再び私に期待の眼差しを向ける。――答えは決まっている。

「うん。精一杯歌うよ!」
「ありがとう! アタシはドナ。お前は?」
「私は華音。よろしくね!」

 笑顔で言うと、彼女――ドナもとびきりの笑顔を返してくれた。