「ま、これで盗みの一件はちゃらでいいよな、おっちゃん。まさか昔の友人の家族を捕まえたりなんてしねぇよな」
「あぁ、うちの若い連中や店主は儂が説得しよう。ただ、」

 視線がツェリへ移る。

「そのモンスターは……」

 ――そうだ。彼はまだツェリをドナ達を守るモンスターだと思っている。
 自警団の団長であるラルガさんは当初ラグにモンスターを倒しその証拠を持ってくるようにと頼んでいた。

 でも。

「ダメだ! ツェリは絶対に渡さないぞ!」

 ドナがツェリの前で庇うように両手を広げた。

「しかし、街の者は皆そのモンスターに怯えているのだ。安全だというなら、それを証明せねば皆納得せんだろう」

 確かに街の人たちにとったらツェリの存在は脅威だ。
 倒したと言うならその証拠を、安全だと言うならその姿を実際に見ないことには山に凶暴なモンスターが棲みついているという不安は消えないだろう。

 でもツェリを、王子の仮の姿をそんなに多くの人の目にさらしてしまって大丈夫なのだろうか。

(実は王子様でした、なんて言えるわけがないし。でもラルガさんにくらいは……)

 ちらりとクラヴィスさんに視線を送るが堅く口を閉ざしていて、彼がラルガさんにも言う気はないのだとわかった。

「ツェリ?」

 ドナの小さな声に見るとツェリが彼女から離れていく。
 皆の視線が集中する中ツェリは茂みの中に入り、幹の太い立派な木の前で立ち止まった。そして。

 ――ドンっ!

 なんと自分の頭……いや、その鋭い角をその木に思い切りぶつけ始めたではないか。

「ツェリ!!」
「何をしているのです!?」

 ドナと、流石にクラヴィスさんも止めようとツェリの元へと急ぐ。
 その間も何度も何度もツェリは太い幹に角を打ち付け、ついにそれは根元からぽっきりと折れてしまった。

(だ、大丈夫なの!?)

 だが皆が見守る中ツェリは特に痛がる様子もなく、その落ちた自分の角を口に咥え茂みから出てきた。

「そーいうことか!」

 アルさんがツェリに駆け寄りその角を受け取る。

「なぁおっちゃん、これ。この角がモンスターを倒したって証拠になるだろ」

 そして彼は立派な角を空へと掲げた。
 その後ろでドナがツェリの身体を強く強く抱き締めていた。