「そうか。ノービスは、ノービスは元気なのか?」
「死んだよ。ひと月前に」
ドナの言葉にラルガの目が大きく見開かれる。
「……そうか」
掠れるような小さな声を出し、ラルガは視線を落とした。
「それだけかよ」
(ドナ?)
見ると、彼女が強く強く拳を握っていた。
「友人なら、なんでばあちゃんのそばにいてあげなかったんだ」
「…………」
ラルガは下を向いたまま答えない。
「ばあちゃんはアタシと会う前、何十年もずっとこの山で一人で暮らしてたって言ってたぞ。セイレーンだからって」
以前聞いた、セイレーンの話を思い出す。
歌が不吉とされたこの世界で、歌を使う術士は普通には暮らしていけないと。
(ノービスさんも、その一人……)
「友人? 友達だったって言うなら、なんでばあちゃんを一人にしたんだ!」
徐々に大きくなっていくドナの声。
「なんで最期まで一度も、ばあちゃんに会いに来てくれなかったんだよ……っ」
ドナは泣いていた。
そんな彼女にツェリが静かに寄り添う。
「――儂はあの頃、まだ何も出来ん子供だったんだ……」
懺悔するように俯いたまま、ラルガは絞り出すような声で話し始めた。
「立ち入ってはならないと言われていたこの山の中で儂はノービスと出逢い、儂は彼女の“歌”にすっかり魅了されてしまった。それから毎日のように儂は彼女と逢い、その歌を聴いた。だがその事がばれ、もう山には行くなと言われ……ノービスを守るためには、その言葉に従うしかなかった」
「そんなの! 大人になってから会いに来ることは出来たはずだろ!?」
「儂にもわからないんだ!」
急に声を大きくしたラルガに、ラグにくっついていたモリスちゃんがびくりと震えた。
「このことを思い出したのはつい最近なんだ。なぜか儂はずっと、何十年もの間ノービスのことを忘れていた……」



