「そ、それ……」

 紋様から視線をずらし、ラグの冷たい瞳とぶつかりドキリとする。

「あの野郎に付けられた印だ」

 それでもラグは低く答えてくれた。

 ――やはり見間違えじゃない。その紋様はエルネストさんの額にあるものと同じものだ。

 ふいと視線が外される。何も返せなかった。
 これまで、朝も昼も夜もずっと一緒にいたのに、全く気付かなかった。
 彼の額にはいつも布が巻かれていたから。――そう、今考えれば不自然なくらいに。

 と、そのときだった。

「お兄ちゃーん!」

 突然上がった可愛らしい声に驚き視線を向けると、モリスちゃんとその後ろに兄のトム君がこちらに走って来る。
 先ほどまであんなに泣いていたモリスちゃんが満面の笑みでラグの前に立った。――もう、ラグのことは怖くないのだろうか。

「はい、これモリスのあげる! 髪紐切れちゃったんでしょ?」

 ラグに小さな手が差し出される。

「モリスたちを守ってくれてありがとう!」

 その無邪気な笑顔を見て胸があたたかくなる。

 でもラグの反応が無い。
 彼は遠くを見るような目でモリスちゃんを見つめていた。

「ラグ?」
「あ? あぁ」

 私が声を掛けて初めて気付いたようにラグはその髪紐を受け取った。
 自分の髪紐ですぐに髪を束ね始めたラグを見て、モリスちゃんが満足げに笑う。

「お兄ちゃん、とってもとってもカッコ良かったよ!」
「あれー、モリスちゃん俺は? 俺はカッコ良く無かった?」

 自分を指差し笑顔で訊くアルさん。

「お兄ちゃんもカッコ良かったけど、モリスはこっちのお兄ちゃんの方が好きー!」
「お、おれは兄ちゃんの方がカッコ良かったと思う!」

 慌てたようにモリスちゃんの後ろにいたトム君がフォローに入る。

「男に言われてもなー。ちぇー、俺も超頑張ったのになー」

 そんなアルさんに苦笑したときだった。

「一体、何がどうなっている。こ、ここはどこだ!」

 男の声にハッとして振り返る。
 すっかりその存在を忘れていた、自警団の団長が目を覚ましていた。