部屋の空気がだんだん重苦しくなっていく。その時、渉がテーブルをバンと叩いた。途端に二人は口を閉ざし、部屋は静かになる。

「やめなさい、お客様のいる前で」

渉が静かにそう言うと、「お茶を入れ直してきます」と香澄は立ち上がった。藍は胸もとをギュッと掴み、正人に嘘をついてしまった罪悪感でいっぱいになる。

『藍!ここがこの場所で一番夕日が綺麗に見えるんだ!!』

藍の頭の中に懐かしい顔が浮かぶ。考えるよりも前に、藍は立ち上がっていた。

「藍さん?」

「ごめんなさい。少し頭を冷やしてくるわ」

大河にそう言い、藍は家を飛び出した。



家を飛び出した藍は、隣の家へと走った。隣の家と言ってもかなり離れている。

藍は走ってその家へと向かった。藍の実家と同じような瓦屋根の家。表札には桐生(きりゅう)と書かれている。

藍は震える指で呼び鈴を押した。すぐに扉が開き、香澄と同じ歳くらいの女性が現れる。

「藍ちゃん……」