「藍、帰って来たのね!」

水色の服を着た女性が玄関に姿を見せる。大河は一気に緊張したように顔を強張らせ、藍は「久しぶりね、お母さん」と微笑んだ。

「あら、その方が藍の彼氏かしら……」

香澄が大河をじっと見つめる。大河は立ち上がり、「初めまして!」と元気よく自己紹介をした。

「藍さんとお付き合いさせていただいています。河野大河です。よろしくお願いします!」

「藍の母の香澄です。こちらこそ、よろしくお願いします」

緊張している大河とは真逆に、香澄はニコニコと優しく微笑みながら話している。その時、「母さん!お茶ができたよ!」と玄関に男性が姿を見せた。

その男性の姿を見て、藍は驚く。怪我をしたと聞いたため来たのだ。それなのに、その人物は元気に歩いている。

「お父さん、どうして……!?」

驚く藍に、香澄はニヤリと笑っていた。



「……藍の父の、霧島渉です……」

渉の自己紹介の声が重く響く。リビングの空気は冷え切っていた。

テーブルの上には、渉が入れた温かいお茶に栗羊羹。しかし、誰も手をつけようとしない。