「ん〜……、じゃあ名前を二人きりの時は下の名前で呼んでください。俺もそうしますから」

「そんなことでいいの?」

「はい!」

大河は嬉しそうに笑う。その顔は、この旅に藍が誘った時のようだ。

『お兄ちゃん!待ってよ〜』

『早く来いよ!綺麗な花火が今から見えるぜ!』

ふと、藍の中に幼い頃の思い出か蘇る。藍は胸を押さえ、大河から目をそらした。心臓がバクバクと音を立て、今にも泣き出してしまいそうな気持ちがある。

「藍さん?どうしましたか?」

大河が藍の隣に座り、顔を覗き込む。

「大丈夫よ。だから……」

そう藍は言うが、心の傷口はどんどん広がっていく。

「誰が見ても嘘ってわかりますよ」

大河はそっと藍の手に触れた。藍よりも大きな手。それが藍の手を包み込む。

「話してくれませんか?藍さんの悲しみや苦しみを知りたいんです」

藍は大河にまっすぐに見つめられる。電車の中には偶然なのか、それとも話すべきだと神が定めた運命からか、藍と大河以外誰もいない。