「俺に試練を与えるようなことばっかしやがって、なんか恨みでもあんのか?」

剣ちゃんは私の額に、自分の額をごつんっとぶつけてくる。


「ううっ」


地味に残る痛みに私は涙目になりながら、額を押さえて悶えた。


「いたた……夜分に申し訳ないとは思ったんだけど、眠れないし、ひとりで部屋にいるのが怖くて……」

「あぁ、あのメールのことか。とりあえず入れ」


中に通された私は剣ちゃんと並ぶようにベッドに座ると、気を紛らわすようにとりとめのない話をする。


「そういや、さっきのメールのこと、お前の親父さんに報告しといたぞ。さらわれたあとにこれじゃあ、心配が絶えねぇよな」

「うん……早く安心させてあげたいんだけど、犯人がつかまらないことには、そうもいかないよね」


剣ちゃんはボディーガードとして、なにかあれば私のことをお父さんに報告してくれているらしい。

険しい剣ちゃんの顔を見ていると、お父さんがどれだけ私のことで気を揉んでいるのか、察しがついた。

「ねぇ、剣ちゃん。剣ちゃんのお父さんは、大丈夫? うちにずっといる剣ちゃんのこと、心配してない?」


私のことばかりで気づかなかったけど、剣ちゃんの家族だって大事な息子が危険な目に遭ってないか、不安なはずだよね。

そう思って聞いたのだけれど……。


「そもそも、親父が俺にふった仕事だぞ? 心配なんかしてねぇって」


お父さんの話題に触れたとたん、剣ちゃんの空気がピリピリとしだす。


「剣ちゃん、前から聞きたかったんだけど……。お父さんのこと、あんまり好きじゃない?」


「なんだよ、急に」

「お父さんの話をしてるときって、いつもイライラしてるから。でも、最初に会ったとき、すごく優しそうだったよね。なのに、なんで……」

そんなにお父さんを毛嫌いするの?

「たぶん俺は……」

剣ちゃんは憂いをにじませた表情で、ベッドに後ろ手をつくと天井を見上げる。


「親父を前にすると、宙ぶらりんな自分を見透かされそうで怖いんだろうな」

「宙ぶらりん?」


私の問いには答えずに、剣ちゃんはそのままパタンッと背中からベッドに倒れた。

それから腕で目をおおってしまったので、どんな表情をしているのかわからない。


「俺は自分の将来を他人に決められたくないから、親父と同じ道は進まねぇって言ったけど、じゃあなにになりたいかって聞かれると、それもわからねぇんだよな」

「剣ちゃん……」

「そういう格好悪い自分を見られたくなくて、つい反抗的な態度をとっちまう。でも、最近は……」


腕を下ろした剣ちゃんは、真剣な眼差しを私に注いでくる。


「大事なやつを守るために、親父と同じ道を歩むってのもありだなって思うようになってる」

「だ、大事なやつ?」


聞き返しながら鼓動が激しく脈打ち、顔に熱が集まる。

本当は期待してる。

剣ちゃんの答えが私かもしれないって。