剣ちゃんから逃げるように学園を飛び出した私は、あてもなく歩いていた。
「ふっ、うう……」
ショックで涙をぬぐうこともできず、私は剣ちゃんに触れられた首筋を押さえて足を止める。
すると、後ろから足音が聞こえてきた。
もしかして……!
「剣ちゃん!」
期待を膨らませて振り向くも、そこにいたのは――。
「愛ぴょんのナイトじゃなくてごめんよ?」
再試験が終わったのか、萌ちゃんがいた。
「あ……」
落胆したようなつぶやきが口からこぼれてしまう。
自分から逃げたくせに、剣ちゃんに探しに来てほしかったなんて、都合よすぎるよね。
「こっちこそ、ごめんね……」
私はごしごしと手の甲で涙をふいて、萌ちゃんに謝る。
すると、私の様子がおかしいことに気づいたのかもしれない。
萌ちゃんは私の手を握って、にっこりと笑った。
「よし! 憂さ晴らししよ?」
そう言って萌ちゃんが連れてきてくれたのは、ロリータファッションブランド『ヴェラ』の本店だった。
そこでかわいい格好に着替えさせられた私は、萌ちゃんと写真の撮り合いっこをしながら気を紛らわす。
「萌はね、かわいいものに囲まれてると元気になるの。愛ぴょんにも、そうなってほしいなあ」
「萌ちゃん……心配してくれたんだね」
「愛ぴょんは親友だもん」
「私にとっても、萌ちゃんは大事な親友だよ」
私たちは撮影会を終えると、制服に着替えてお店の奥にあるソファーに腰かける。
萌ちゃんが特別に出してくれたハーブティーを飲みながら、ふたりで話をした。
「萌、中学1年生のときの校外学習にロリータファッションで行ったことがあったでしょ? 覚えてる?」
校外学習……。
その単語で私の頭に蘇ってくるのは、萌ちゃんと仲良くなった宝物のような日のこと。
「テーブルマナーを学ぶために船に乗ったんだよね。あのときのことがきっかけで萌ちゃんと仲良くなったんだもん、忘れないよ」
あの日、萌ちゃんは学園指定のドレスコードを無視したフリフリのメイド服のようなものを着てきて、クラスメイトから笑われていた。
「周りからコスプレ?ってバカにされて……。萌がロリータファッションだもん、って言っても誰も聞いてくれなくて、すごく悲しかったんだ」
「でも、私はフランスのお人形さんみたいでかわいいなって思ってたよ。ロリータファッションは初めて見たけど、すごく似合ってた」
今と同じことを校外学習の日も伝えた。
そうしたら萌ちゃんは、顔をくしゃくしゃにして笑って、『ありがと!』って抱きついてきたんだよね。
あのときの萌ちゃんの笑顔は忘れられないな。