「きみにとやかく言われたくないよ。俺は俺の方法で、愛菜さんを自分のものにする」


そんな雅くんの声で、物思いにふけっていた私は現実に帰ってくる。


「あのな、こいつは物じゃねぇんだよ。お前のゆがんだ愛情がこいつを傷つけんなら、俺も容赦しねぇぞ」


剣ちゃんの声にも、どこかイラ立ちがにじむ。

それを無視して、雅くんは私を見つめた。


「俺たちは政治家の子どもだからね。事件に巻き込まれやすい立場にあるし、お互いに気をつけよう。じゃあまた」


雅くんは意味深な言葉を残して、私たちの横をすり抜けていく。


「あいつ……執着してるうちに、お前のことが好きになってたんだな」

「まさか、ありえないよ。雅くんの好きは、恋とはちょっと違う気がする」


雅くんの口から聞いてもなお信じられないのは、想われているというのに、それを聞いて心が冷たくなる感覚があるから。


「うまく言えないんだけど、恋ってもっと温かいものじゃないのかな?」


私は剣ちゃんのことが好きだって気づいたとき、どうしようもなく胸が熱くなった。

でも雅くんは私を好きって言いながら、目が冷たいままだった。


「人を好きになるって、理屈で説明できるものばかりじゃねぇだろ。憎いも嫌いも、愛情の裏返しだったりする」

「雅くんの執着も?」

「そうだ。そこから恋に変わることだって、無きにしも非ずじゃねぇの?」


そっか、いきなり人を憎んだり、執着したりはしないもんね。

好き、気に入られたい、仲良くなりたい。

そういう気持ちが根本にあるからこそ、その人が嫌いになったりするって剣ちゃんは言いたいのかな。

ちょっとしたきっかけで、どちらにも転びうる可能性があるのが人の心なのかもしれない。


「なんとなく……わかったかも」

「わかったならいい。とにかく、ひとりのときはあんましあいつに近づくなよ。危ない思考には変わりねぇからな」

「う、うん」


雅くんのこと、なにも知らないうちから申し訳ないけど……やっぱり、苦手だな。

それでも、あの人を理解できる日がくるんだろうか。

私は複雑な気持ちを抱えながら、雅くんの背中を見送ったのだった。



――数日後。

私は放課後に図書室にいた。

剣ちゃんと一緒に帰るはずだったのだけれど、授業の小テストの結果が悪かったので、常連の萌ちゃんと一緒に再試験を受けているのだ。

剣ちゃんを待って読書をしながら時間をつぶしていると、そこへ雅くんが現れる。


「あれ、今日はボディーガードの彼はいないんだ?」

「う、うん」


剣ちゃんに近づくなって言われたのに、どうしよう。

緊張しながら、席を立つ口実を考える。

そんな私に気づいているのかいないのか、雅くんは苦笑いしながら、近寄ってきた。