翌日、誘拐されたものの軽傷ですんだ私と剣ちゃんは普段どおり学園に登校していた。

今は外でキャンバスを並べて、美術の自由デッサンの授業中だ。

昨日の話をしたら、学くんは少しほっとしたように私と剣ちゃんの顔を見比べる。


「学園ジャックの次は、誘拐か。命が助かっただけでも、不幸中の幸いだな」

「ケンケン、愛ぴょんを守るなんて、さっすがナイト!」


萌ちゃんの中で、剣ちゃんのケンケン呼びが定着したみたい。

当の本人である剣ちゃんは、複雑な顔をしてるけど。


「花江、お前は黙っていろ。で、森泉と矢神をさらった人間に覚えはあるのか?」


「あのときは逃げんのに必死だったからな、わからねぇ。ただ、見張りの男たちは若かった。たぶん俺らとそんなに変わらないくらいだ」


剣ちゃん、あの状況でそんなところまで記憶してたんだ。

驚く私には気づかずに、剣ちゃんは腕を組んで難しい顔をする。


「警備万全のこの学園に侵入したやつらの件もだけどよ、ここは簡単に不審者が入れる場所じゃねぇだろ?」

「そうだな。詳しくは言えないが、学園のセキュリティは警備員含め優秀で万全だ」


詳しく話せないようなことを知ってる学くんって、何者なんだろう。

生徒会長の枠を超えてる気が……。


「閣下、恐るべし」


私と同じ気持ちだったのか、萌ちゃんが小声でそう耳打ちしてきた。

その間にも、ふたりの話は進む。


「立て続けに愛菜が襲われたことといい、俺は校内の人間の仕業じゃねぇかと思う」

剣ちゃんの推測に私は愕然とする。

「そんな……この学園に私を狙ってる人がいるの?」


私は外でデッサンしているクラスメイトや校庭で走っている生徒たちを見る。

もしかしたら、この中に私を狙っている人が……?

また関係のない人たちを危険な目に巻き込んじゃったら、どうしよう。

不安が渦巻く胸を服の上から押さえると、頭にこつんっと剣ちゃんの拳が当たる。


「お前は余計なこと考えんな。いつも通り、のほほんとしてろ。疑うのも警戒すんのも、俺がすればいい」

そのやりとりを聞いていた学くんと萌ちゃんは顔を見合わせた。


「森泉への過保護ぶりに拍車がかかっているな」

「愛しちゃってるんだね~」


にやにやする萌ちゃんに、剣ちゃんの眉間には深いしわが寄る。

なにもしてないと嫌なことばっかり考えちゃうし……。

私は気を紛らわすように、キャンバスに筆を走らせる。

花壇に咲く花を見て描いていると、私のキャンバスを覗き込んだ剣ちゃんが顔をしかめた。


「どうしたら、そんなに花が毒々しくなんだよ」

「森泉は絵の才能は皆無だからな」


すかさず学くんもつっ込む。

ふたりとも、ひどい。
そんなに下手かなあ?
今回は我ながら、力作だと思ったんだけど。

ずーんと沈んでいると、萌ちゃんが私の肩を抱く。