「嫌、なんかじゃないよ」


私は勇気をふりしぼって、剣ちゃんの気持ちに応えるように、その頬にキスを返した。


「おまっ、なにして……」


目を白黒させて頬を押さえる剣ちゃんの顔は、ほんのり赤い。

なんだ、恥ずかしいのは私だけじゃなかったんだ。
その事実にすごくほっとして、すぐにくすぐったい気持ちになる。


「り、理由は聞かないでね。じ、自分でもよくわからないけど、剣ちゃんに触れたくて……」


しどろもどろに気持ちを伝えていると、剣ちゃんが私の肩をつかんだ。


「愛菜……」


切なげに呼ばれた名前に、胸が騒ぐ。

あぁ、そっか。

私は剣ちゃんに対してだけ抱く安心感の理由に気づく。


「愛菜」


たまらずといった様子で、私の顎に手をかける剣ちゃん。

その瞳には、焦がれるような熱が見え隠れしている。

私といたら、剣ちゃんは危険な目に遭う。

それがわかっていても、剣ちゃんだけは手ばなせない。

彼を受け入れるように、私もそっと目を閉じる。

何度も命がけで守ってくれて、少しずついろんな表情を見せてくれる剣ちゃんのことが、私は……。

――好きなんだ。

気持ちを自覚した瞬間に、重なる唇。

初めてのキスに頭の中が真っ白になった。

波音さえも遠ざかって、聞こえるのはお互いの吐息と自分の壊れそうなほど高鳴る鼓動の音だけ。

――好きだよ、剣ちゃん。

それしか考えられないくらい。

命を狙われていたことなんて忘れちゃうくらい。
どうしようもなく、好き……。