「この毛布を使ってください」


警備員さんは私たちに毛布を渡すと、急いで操舵室に戻っていき、周りにてきぱきと指示を出した。

船が動き出して、私は剣ちゃんと甲板から遠ざかる港を見つめる。


「私たち、助かったんだね……」


剣ちゃんを見れば海に飛び込んだときに痛めたのか、渋い顔で肩を押さえていた。

私は重い身体を動かして、自分をかばってくれた剣ちゃんの頬に手を当てる。


「痛い思いさせて、ごめんね。助けてくれてありがとう」

「お前はまた、そうやって謝る。しかも、泣きそうじゃねぇか。ったく、自分のために泣けよ」


剣ちゃんは私の顔をいつもみたいにゴシゴシと荒っぽい手つきでふいた。

でも、ふいてるそばから涙がポロポロこぼれてこぼれて止まらない。


「お前、意外と泣き虫だよな」

「剣ちゃんの前だけだよ……弱い自分も、全部見せられるんだ」

そう言えば、剣ちゃんが息を呑むのがわかった。

「あーもう、なんなんだよ、お前!」

剣ちゃんはいきなり、私の身体をかき抱く。

「わっ、剣ちゃん!?」

「俺に心許してくれてるって言うなら。痛い思いさせてごめんとか、謝るんじゃねぇよ」

背中に回った腕に力が込められる。

「お前見てると、守らねぇとって強く思うんだよ。だからこそ、無茶できたんだ。いいかげん、わかれよ」

息ができないほどの抱擁。

でも私は、その苦しささえも愛おしかった。


「お前が、愛菜が、いつものほほんとしていられるように、俺がお前を傷つけるやつ全部ぶっつぶしてやっから」

「うん……」


剣ちゃんの想いに胸が熱くなる。

イラついたから、憂さ晴らしに誰かをやっつけるんじゃなくて、剣ちゃんは私を守るために戦ってくれるって言ってくれた。

どうしよう、うれしい……。

自然に笑顔がこぼれたとき、ふと剣ちゃんの顔が近づいてくる。


「え……」


驚く間もなく、誓うようにそっと私の額に剣ちゃんの唇が触れた。

これって……これって、キス!?

瞬時に心拍数が跳ねあがる。

どうして、なんで!?

疑問符が頭の中をぐるぐると駆け巡って、剣ちゃんを見上げれば、真剣な瞳がそこにある。

顔が熱い……。

額に触れただけなのに、意識が飛んじゃいそうなくらいドキドキしてる。


「わりぃ、嫌だったか」


固まっている私になにを勘違いしたのか、剣ちゃんは申し訳なさそうに身体を離す。

あっ、違うのに……。

私、剣ちゃんに触れられてうれしかった。