「準備はいいか?」


確認してくる剣ちゃんに、私は強くうなずく。

うまくいくかはわからないけど、剣ちゃんがいれば大丈夫だって、そう思えた。

剣ちゃんは一瞬だけ私の手を握ったあと、すぐに離して大声を出す。


「おいっ、愛菜どうした!? 気持ち悪いのか、吐いてやがる……。これはなにか重い病気に違いねぇ!」


そんな剣ちゃんの迫真の演技にまんまとだまされた見張りの男が慌てて室内に入ってきた。


「うるさいぞ、何事だ!」


剣ちゃんは大きく踏み込んで、弾丸のように一瞬で男との距離を縮めると手刀で気絶させる。


「一丁あがりだな」


両手をパンパンッと叩いて、振り向いた剣ちゃんは私に手を伸ばす。


「愛菜、来い!」

「うん!」


私は迷わずにその手を取って、引っ張られるように部屋の外へ出た。

でもすぐに私たちが抜け出したことがバレてしまい、犯人たちが騒ぎだす。

私たちは進行方向に犯人がいるのに気づいて、すぐに死角になりそうな曲がり角に身を隠した。


「はぁっ、はぁ……」


私は乱れる呼吸をなんとか抑える。

走ったのは大した距離じゃないのに、緊張して余計に息が上がっていた。


「つらいか?」

剣ちゃんが顔を覗き込んでくる。

「ううん、でも……」


私たちだけで逃げ切れるのかな?

そんな私の不安を察したのか、剣ちゃんに強く手を握られた。


「お前を奪わせたりしねぇから、大丈夫だ」

剣ちゃんの大丈夫を聞いたとたん、不安が吹き飛ぶ。


「ごめんね、何度も弱気になったりして」

「いいから、もっと不安を口に出せ」

「でも、剣ちゃんががんばってくれてるのに、申し訳ないなって……」


そうこぼせば、剣ちゃんは私の頭に手を乗せる。


「お前は弱音を吐かなすぎなんだよ。俺は察し悪いから、言葉にしてくれたほうがお前をひとりで悩ませずにすむ」

「剣ちゃん……うん、ありがとう」

私は剣ちゃんの手をぎゅっと握り返す。

「俺の手、ぜってぇに離すなよ」

「うん!」

この手だけは、なにがあってもつないでいよう。

犯人たちの姿が見えなくなると、私たちは外を目指して走った。

犯人たちの目をかいくぐって、ようやく隙間から光が差し込む扉を見つける。

あそこなら、外へ通じているかもしれない。

そんな期待を込めて出ると、そこは2階のバルコニーだった。