「そんなことで喜ぶとか、安いやつ」


剣ちゃんは私からスッと目をそらしつつ、いつもみたいに私の頭をわしゃわしゃと撫でる。

なごやかな空気が流れたとき、急に剣ちゃんに腕を引かれた。


「え……」

「下がれ!」


剣ちゃんは私を背にかばうと、ぞろぞろと現れた見知らぬ男たちをにらみつける。


「な、なに!?」


怖い……。

まさか、また私をさらいに来たの?

剣ちゃんの背にしがみつくと、男のひとりが一歩前に出てきた。


「森泉、愛菜だな」

「なんだよ、てめぇらは」


剣ちゃんは鋭い視線で男たちを射貫く。


「おとなしく俺たちについてこい」


男たちは私たちを囲むと確実に逃げ場を奪う。


「くそっ、こいつら隙がねぇ」


苦い顔をする剣ちゃんに、私は迷う。

この人たちは私が目的なんだよね。

私がついていけば、もしかしたら剣ちゃんのことは見逃してもらえるかも。


「剣ちゃん、剣ちゃんだけでも逃げ……」

「ふざけんな! 俺の中にお前を置いて逃げるって選択肢は、ねぇんだよ」


私の言葉を剣ちゃんは強い口調でさえぎった。


「ひとりにしねぇよ、絶対にな」


剣ちゃんは離さないとばかりに、私の手を強く握りしめる。


「剣ちゃん……」


これから、どうなっちゃうんだろう。

なにより怖いのは、剣ちゃんが傷つくかもしれないってことだ。


「よし、車に乗れ」


男たちはそばに停まっていた車に、私たちを促す。

剣ちゃんを巻き込みたくない。


守りたいのに……。

抵抗もできないまま、私と剣ちゃんは頭に袋をかぶせられて、男たちに誘拐されてしまった。