「記念物級の天然になにを言ってもムダだな。いいか? これから、俺以外の男は全員敵だと思え」

「ええっ、そんな無茶な……」

「こんな無防備で、警戒心のないお前が今まで襲われなかったのは奇跡だ、奇跡」


剣ちゃんの中の私は、よっぽどぼんやりしてるように見えるんだろうな。

苦笑いしていると、剣ちゃんの目が据わった。


「俺がボディーガードをやる以上、野郎どもには指一本触れさせねぇから、お前もお前で用心しろよ」


剣ちゃんは、いささか心配しすぎな気がする。

でも、必死だし……。
うん、ここは素直にうなずいておこう。


「は、はい……」


私の返事に満足した様子の剣ちゃんは、視線をバスケに夢中になっている友だちたちに向ける。

その懐かしそうな眼差しに、尋ねずにはいられなかった。


「みんなと一緒に卒業したかった?」

「まあな」

「そう、だよね」


もう剣ちゃんを解放するべきなんじゃないか。

そんな考えが頭に浮かび、知らず知らずのうちにうつむいてしまう。

すると、剣ちゃんに頬をつままれた。


「余計なこと考えんな。俺は今の生活も気に入ってる。そう思えるようになったのは、まあ……お前のおかげだ」

「本当に? 事件に巻き込まれたり、ケガしたり、それでもちゃんと剣ちゃんも学園生活楽しめてる?」


剣ちゃんは乱暴な態度ばっかりとってるけど、なんだかんだで優しいから……。

私に気を遣って、そう言ってくれてるんじゃないか。

そんな思いが頭をかすめて、不安でたまらなかった。


「私といるの、嫌になってない?」


祈るような気持ちで問い詰めると、剣ちゃんは呆れ交じりのため息をつく。


「嫌になってたら、お前のボディーガードなんてとっくにやめてるっつーの」

「……剣ちゃんはどうして、私のそばにいてくれるの?」


いくら自由と引き換えとはいえ、ナイフや拳銃を持った人に襲われたんだよ?

そんな危険続きで、普通の人ならボディーガードなんて降りてる。

それなのに、剣ちゃんの意思は初めから変わらない。
その理由が全然わからない。


「……さあな」


そっけなく言いはなった剣ちゃんは、ズボンのほこりを払いながら立ち上がると一歩前に踏み出した。


「俺自身、まだはっきりとはわからねぇけど……」


言葉を切った剣ちゃんは足を止めて、私を振り返る。

その真摯な眼差しに、心臓が静かに跳ねた。