「俺は男なんだからいいんだよ。だからお前は、おとなしく俺に守られてろ」

「剣ちゃん……」


愛菜は目を見開く。

その驚きの表情は、みるみるうちにくしゃくしゃに歪んでいき、愛菜は何度も口の開閉を繰り返して、告げる。


「ごめ……ううん、ありがとう」


涙目で微笑む愛菜に、胸がぎゅっと締めつけられる。

くそっ、なんだこれ。

自分の身体に起きた異常事態にとまどっていると、遠くでパトカーのサイレンの音がした。


もう大丈夫だな。

そう確信した俺は、泣きじゃくっている愛菜の頭を撫でながら声をかける。


「警察が犯人を確保するまでは、ここで身を隠すぞ」

「うん、わかった。あと……剣ちゃん、助けに来てくれてうれしかったよ」


腕の中で、ふわっと花が咲いたような笑顔を向けてくる愛菜を見た瞬間――。


かわいすぎんだろ。

近くで見ると、クリッとした二重の瞳やふっくらとした唇が否応なしに目に入って、心臓がやたら騒がしくなる。


「なっ……んだよ、急に」


なんとか返事はしたが、声が上ずった。

それにまったく気づいていない愛菜は、俺の下心なんて気づきもせずに見上げてくる。


「ちゃんと伝えておきたかったの。今も剣ちゃんがそばにいてくれるから、私は落ち着いていられてる。剣ちゃんといると、安心するんだ」


愛菜は人の気も知らないで、俺の胸に頬をすり寄せた。


「ぐっ」


なんなんだ、このかわいい生き物は。

こいつ、俺の忠告忘れてねぇか。

そんなうれしそうな顔ではにかみやがって、危機感がなさすぎなんだよ。

心の中で邪な感情をぶちまける。

理性なんてとっくに役立たずで、俺は一度触れてしまった愛菜の温もりを突きはなせない。

こいつを離したくないとか、わけわからねぇ。

ダメだと思いながらも、もう一度理性と闘った結果……。

俺は呆気なく負けて、愛菜をさらに強く抱きしめるのだった。