パーティーの一件から数日後。

学園の昼休みに愛菜と萌、学と一緒にランチルームでご飯を食べていたときだった。


『黎明学園の生徒の皆さん、あなた方は今から我々が身代金をいただくための人質です』


突然かかった放送に、向かいの席にいた萌が牛乳を噴きだす。


『そこを動かないでください。従わなければ、命の保証はできませんので、お忘れなく』

「父さん……理事長は今日、学園を留守にしている。その隙を狙って、バカなやつらが忍び込んだか。警備に問題があるようだな」


眼鏡を人差し指で押し上げながら、冷静に状況を分析する学に俺は顔を引きつらせた。


「お前、冷静すぎるだろ」

「この学園は資産家や著名人の子どもばかりが集まるんだぞ。金銭目的に事件を起こすには絶好の場所だ。珍しいことでもない」


冷静な学とは反対に、萌はあわあわと腰を上げたり座ったりを繰り返す。


「どどどっ、どうしよう! 逃げないと!」


ほかの生徒たち同様に慌てだす萌の口に、学はミートボールを突っ込んで黙らせた。


「んぐっ……うう」

「声が大きい、静かにしないか」

そう言って学は立ち上がり、生徒たちに声をかける。


「みんな、落ち着くんだ。犯人の目的は身代金。金を得るまでは俺たちの命まではとらない。ここでおとなしく、警備員が警察に通報するのを待とう」

生徒会長の指示だからか、みんなはひとまずうなずいてランチルームに待機する。

さすが、生徒会長。

だてに800人近くいる全校生徒をまとめてるわけじゃねぇんだな。

学の冷静さと人望の厚さに感心していると、ふいに愛菜が静かなのが気になった。

もしかして、怖いのか?

隣を見ると、愛菜は意外にも取り乱すことなく静かに座っている。

そういやあ、こいつ……。

今までも危険な目に遭ったとき、泣き叫んだりしなかったよな。

それに驚いていると、ランチルームに犯人と思われる男の集団がやってくる。

それは数日前にパーティー会場で見た、黒ずくめの男たちと同じ身なりだった。

狙いは愛菜かもしれない。


「お前は顔を伏せてろ」


愛菜の頭を自分の膝の上に押し付けるようにする。

犯人たちは生徒の顔を順番に眺めるようにして、ランチルーム内を歩き回り、愛菜に目をつけた。


「森泉の娘だな。こちらへ来い」

「離せ!」


くそっ、やっぱりこいつが狙いか。

俺は乱暴に愛菜の腕をつかむ男を突き飛ばそうとした。

けれど、膝の上に愛菜がいることを忘れていた俺はうまく立ち上がれず、犯人に殴られる。