「そうかよ」

剣ちゃんは照れくさいのか、そっけなく返事をしてそっぽ向いてしまう。

今なら、剣ちゃんの将来のことも聞けるかな?

和やかな空気に背中を押されて、私は思い切って尋ねる。


「剣ちゃんは、今もまだお父さんと同じ警察官にはなりたくないって思ってる?」


その話題に触れたとたん、剣ちゃんの顔が強張る。

怒らせちゃったかも……。

ハラハラしながら見つめていると、剣ちゃんはゆっくりと絞り出すような声で話し出す。


「……俺は親父と同じ道だけは、ぜってぇに進まねぇ」

「そっか……うん。剣ちゃんの未来は剣ちゃんのものなんだから、好きに生きていいと思うよ」


なにか、考えるところがあるんだと思う。

私も政治家の娘だから政治家になってほしいって、そう期待されることがないわけじゃない。

その期待が私の本当にしたいことを曇らせてしまって、自分の気持ちがはっきり見えなくなる苦しさ。

それを知っているからこそ、剣ちゃんの葛藤は少しだけ理解できた。


「俺に親父と同じ警察官になることを期待するやつらは大勢いたけど……」


剣ちゃんは、私の頬を宝物に触れるみたいにさする。


「別の道を歩いてもいいって言ってくれたのは、お前だけだ。やっぱ、変な女だな」


言葉遣いはひどいのに、声は果てしなく優しい。

少しだけ雰囲気が柔らかくなった剣ちゃんに、私もいつの間にか居心地のよさを感じていた。