「あんま、こっち見んな」

「え、なんで!?」

「なんでも、だ」


剣ちゃんは私の頭を押さえて、強制的に下を向かせる。

その拍子に、剣ちゃんの頬が赤くなっていたのを見てしまった。

なんでか、照れているみたいだ。

わかりずらいけど、私のことを認めてくれているのはわかる。

ありがとう、剣ちゃん。

心の中で感謝しながら、私は剣ちゃんの傷口にガーゼを当てて、テープで固定した。

「剣ちゃん、もうひとつね。私がこの家に生まれてよかったって、そう思える理由があるんだ」


改まって切り出したからか、不思議そうにしている剣ちゃんに私はニッコリと笑う。


「政治家の娘じゃなかったら、剣ちゃんとも出会えてなかったかもしれない」


私は剣ちゃんの頬のガーゼに、そっと指先で触れる。


「だから私は、普通の女の子が送るような平和な日常が送れなくてもいいんだ。剣ちゃんと巡り合わせてくれた境遇のすべてが、私の宝物!」

「お前……やっぱすげぇな」


剣ちゃんは「参った」とこぼしながら、ガーゼに触れている私の手を包み込むように握る。


「か弱い女のはずなのに、ときどき……目が離せねぇほど、お前が強く輝いて見えんだよ」


剣ちゃんの眼差しが熱を持っている気がした。

見つめられていたいのに、居心地が悪い。

相反する感情に心がかき乱されていると、剣ちゃんは私の動揺に気づいたのか、話題を変える。


「お前は、親父さんみてぇに政治家になんのか?」


恥ずかしさをごまかすためか、剣ちゃんの口調はぎこちない。

私も赤くなってるだろう顔を隠すようにうつむきながら、しどろもどろに答える。

「わ、私は……世の中を変えたいって願ってる、お父さんの力になりたいんだ」

「考えてんだな、いろいろ」

「でも、その方法がまだ明確には見つかってないんだけどね。だから、まだまだっていうか……」


口先ばっかで情けないな。

肩をすくめて苦笑いすると、剣ちゃんは目を細めてかすかに唇で弧を描く。


「そんなことねぇよ」

「剣ちゃん……」

「危険な目に遭ってんのに、それでも親父さんの力になりてぇって気持ちを見失わないだけでも十分だ」


今できることをとりあえずやってきた。

そんな私を認めてくれたようで、心に光が灯る。


「ありがとう、うれしい」


ありきたりな言葉だけじゃ足りなくて、はにかめば……。