「もしかして剣ちゃん、照れてたり……?」


反応をうかがいつつ、私は剣ちゃんの顔を覗き込む。


「近いんだよ、襲われてぇのか」


私の顔を手のひらで押しのけた剣ちゃん。

もう、そんなこと言って……。


「脅そうとしても、ダメだからね。剣ちゃんが本気じゃないことくらい、わかるんだよ?」

「そういうことじゃねぇんだよ。そうやってむやみやたらに近づくと、男は勘違いすんだ。だから、もっと警戒心を持てって……いや、お前に言ったところで無駄か」

「無駄って、ひど――」


勝手に諦めた剣ちゃんに抗議しようとしたとき、パーティーに参加している20歳くらいの男性が「ちょっといいかな?」と声をかけてくる。


「森泉先生の娘さんだね。よければこれを」


男性はスッとぶどうジュースが入ったグラスを差し出してきた。

喉、乾いてないんだけどな。
でも、受け取らないのは失礼だよね。
剣ちゃんとも、もっと話してたかったのに……残念。

内心がっかりしながら、私は会釈をしてグラスに手を伸ばした。

……はずだったのだけれど、横からグラスを奪われる。


「じゃ、遠慮なく」


そう言って、剣ちゃんは私のぶどうジュースをゴクゴクと一気飲みした。


「ええっ」


なにしてるの、剣ちゃん!
そんなに喉がカラカラだったの!?

私が絶句している間にぶどうジュースを飲み干した剣ちゃんは、手の甲で乱暴に口を拭う。


「ごちそうさん」


黒いオーラをまといながら、剣ちゃんはグラスを男性に突き返した。


「それでは、失礼します」


丁寧な口調とは相反して、剣ちゃんは親の仇でも見るようにキッと男性をにらむ。

その剣幕にあとずさった男性に、剣ちゃんはふんっと鼻を鳴らすと私の手を引いて歩きだした。

しかし、今度は今年30歳になる財閥のご子息から呼び止められる。