「怖いとか関わりたくねぇなとか、いろいろあんだろ」

「そんなこと思わないよ。だって、今の剣ちゃんがいるのは、その人たちとの出会いがあってこそでしょう?」


迷わず言い切れば、剣ちゃんはまぶしそうに目を細めて、私を見つめた。


「俺の生き方を、大事なヤツらを否定しないでくれた女は、お前が初めてだ」


ゆるんでいく剣ちゃんの顔に、私はつられて笑う。


「ふふっ、今度行ってみたいな」

「俺の通ってた高校に……か?」

「うん。剣ちゃんの身を預かってる保護者として、剣ちゃんの大事な人たちにあいさつしないと」


礼儀として必要だと訴えれば、剣ちゃんはあからさまに嫌そうな顔をする。


「は? なんでお前が俺の保護者なんだよ。どっちかつうーと、逆だろ。あと、連れてくのは却下だ」

「ええっ、なんで? そんなに嫌なの……?」


しょんぼりとしてしまう私に、剣ちゃんは困ったように自分の頭をガシガシとかく。


「嫌とか、そういうんじゃねえよ。いろんな理由で、あそこは危険だからだ」

「いろんな意味って?」


きょとんとする私に、剣ちゃんははぁっと盛大なため息をつく。


「お前、隙が多すぎんだよ。行ったら、ぽやーっとしてるうちにすぐに食われる。以上」

「ええっ、勝手に終了しないで!」


なんやかんや言い合っている間に、日は暮れていき……。

気づけば私たちは、ダンスの練習をそっちのけで出会う前のお互いの話に花を咲かせていた。



翌日の放課後、私はドレスアップしてお父さんが呼ばれた国の要人が集まるパーティーに参加していた。

剣ちゃんも私を守るため、タキシードを着せられて私をエスコートしてくれている。


「剣ちゃん、私ね。今日は少しだけ、気分が楽なんだ」

「は? なんで」

「いつもは偉い人にあいさつするとき、すごく緊張するんだけど……」


私は剣ちゃんを見上げると、タキシードのジャケットを軽く引っ張る。


「剣ちゃんが隣にいるから、変に気を張らずにいられてるんだ」

「……お前、そういうことよく平然と言えるよな。恥ずかしくねぇの?」


剣ちゃんは片手で口もとをおおい、顔をそむけた。
心なしか、顔が赤い気がする。